おまけの後日談…かもしれないお話?
空気は緊迫という名の焦燥にじりじりと炙られてか、残暑の陽のせいだけとは思えぬ きな臭さを帯びており。ホテル前の広々とした前庭には、ミリ単位ではなかろかというほどの少しずつ、刻んで刻んでその配置を進めつつある機動隊の面々が、バラのアーチや、萩の茂み、アカンサスの鉢の陰などへ、身を伏せながらの進攻を見せていたものの、
【 いいか、少しでも気づかれるな。
人質にはか弱い令嬢がいるんだからな。】
素手で殴られただけで骨の数本も折れそうな、それはそれは細っそりしていて嫋やかな、天女か妖精かと言わんばかりに儚げなお姿だったのは。ほんの半日ほど前に催されていた、海外からお越しの有名監督のお出迎えのレセプション、ガーデンパーティーのオープニングの様子の中で披露されていたので、警備担当の関係者でなくとも目にしていただろう周知の事実。しかもその上、そこから転じたこの緊急事態をそのまま報道しているワイドショーの中にて、何度も何度も…途中から見ていて意味が分からない人らにまで、サブリミナル効果が起こせそうなほどの頻度で流され続けておいでであり。もはや、全国のお茶の間の皆様全員で、その安否を気遣っていただいておりながら、
『久蔵殿におかれましては、
それが嫌で嫌でたまらなかったらしいので。』
一体 何がコトの原動力やスイッチになるものか。電話での交渉と並行して、いざとなったら犯人が人質を囲い込んだサンルームへの突入も辞さぬぞと、SWATもかくやという迅速かつ慎重な行動で間を詰めていた警察の実行部隊の皆様だったのだけれども。犯人サイドにも中継を通じてそんな手際が漏れてはならぬと、報道関係筋へは当然の手配りで報道管制が敷かれていたため、
『そっか、それで、
サンルームの中で点いてたモニターで
犯人が観ていたテレビには、
その辺りは全然扱われていなかったのですね。』
そうかそうかと、今頃理解したと言わんばかり。ほおっと胸を撫で下ろしたそのついで、行儀のいいお手々を組み合わせ、胸元で何にか祈るような仕草を見せた可憐なお嬢様たちだったけれど、
“……白々しいことを。”
警察がしいていた布陣なんて判らなかったにしては、
………どるん、どるん、ばありばりばりばり、っと
どこかから聞こえた最初の鬨(とき)の声を皮切りに。地の底から響いて来て腹の底へと共鳴誘うよな、そりゃあ重々しいイグゾーストノイズの群れが一気に押し寄せたかと思いきや、
「いやっほうっ!」
「何だ何だ、何の祭りだ、こりゃあっ!」
「誰に断っての戦争ごっこだ?!」
どのマシンも限定解除並みの大きさ、野牛かと見紛うような存在感の大型バイクが群れなして飛び込んで来たもんだから。配備途中にあった機動隊も慌てたが、
「何の騒ぎだ、こりゃあっっ!!」
そちらさんもよほどに驚いたのか、全面ガラス張りというサンルーム、外から素通しだったのを遮るためも兼ねてのこと、ガラス窓には人質たちをカーテン代わりに並ばせていた犯人が。そんなしていて よく見通せないのに焦れたのか、怒り心頭という様子で外へと通じる扉を押し開け、ライフル片手に身を乗り出したので、
「……いっせぇの、せっ!」
無防備になってた背中、一気に押し出したのが2カケル3組の白い腕たちで。しかもしかも、
「何しやがったっ!、命が惜しくはねえのかっ!」
無様にも たたらを踏んでの押し出された焦りか、金切り声となっての振り返った籠城犯。撃ってやろうぞと振り回しかけたが チッと舌打ちをしながら…得物だったはずのライフル銃を投げ捨てると。その代わりにと、上着のポケットから掴み出してた小さなスイッチ、頭上へかざしてこれみよがしに押して見せたが、
居合わせた人全員が、はっと息を飲んだこともあっての、
ただならぬ静けさがその場へ押し寄せたにもかかわらず。
「 んんんっ??」
その静けさが何ともまあ長い長い。押した張本人からして、怪訝そうに周囲を見回し、最後には自分の手の中のスイッチを見下ろし。何度も何度も、しまいには両手がかりで押して見せたが、それでも一向に反応はなくて。
「 こんのぉっ!」
そんな状況だと気づいた機動隊員の一人が、一番間近にいたこともあっての捨て身の突進を敢行し、呆然自失の犯人をあっと言う間にねじ伏せたのは言うまでもなく。
『ああ。なんか小さな…
隠しカメラっぽい何かを持ってらしたような。』
『携帯電話も切ってくださいと、
事前にお願いしておりましたのにね。』
来日なさった監督の、新作映画のプレミアム試写会を兼ねた集まりの場。なので、作品を盗撮されては困るのでとの対処を取ってはあった。前庭に設けた野外ステージから半径何mか、上映が始まったら特別な周波数のジャミング電波が流れるようにという仕掛けをこそりと、
『ヘイさんに仕掛けてもらってありましたので。』
それが働いたのでしょうね。え? なんですって? あの男が爆弾を仕掛けていたなんて初耳です。まあ怖い〜〜〜っと。可憐な身をすくめての怖がっていたのさえ、某一部の関係者各位へは、白々しいというか、いっそ恐ろしいというかな態度に映ってた、ホテルJ、プレミア試写会ジャック事件の解決の段だったのだそうな。
「我らのやらかした騒動を見て、
多少なりとも反省したワケではなかったのだな。」
「怖い想いをしたと言うてはおったが。」
「…そっちもか。」
おあとがよろしいようで〜〜〜vv
〜 今度こそ Fine 〜
*実はね、公民館ジャックの方で、
こういう解決を考えていたんですよ、最初はね。
ただ、故意に暴走族を突入、若しくは周辺を徘徊させて、
犯人の注意を逸らすという手は。
民間人を使うという時点で、
警察官のやるこっちゃないなぁとも思ったのです。
結構なライディング・テクを持つ暴走族の1人や2人くらい、
勘兵衛様にも心当たりはあったでしょうが。
そして、携帯を没収されてても、
モバイルを出せとは言われとらんなんて屁理屈言って、
コブラか何かで連絡取って、
突入までこぎつけるのは可能かも知れませんが。
銃で武装している相手ですしね、怪我させては洒落にならんので、
急遽 仕立てを修正し、ご本人たちに暴れていただいた次第です。
*そしてそしてこちらでは、
「弓野〜〜〜〜っ 」
「あ、兵庫さん、ちわ〜っす。」
ヘッドらしき、どピンクの髪した高校生、
実は久蔵さんのコネの暴走族さんたちだったりして。
「正確には兵庫さんトコの常連患者ですってね。」
「………。(頷、頷)」
しょっちゅうバイクで事故ってはお世話をかけてた面々で。
それへと、どうやって拘束中にお声をかけたかは…
上の段落の後書き参照ということで。
「……久蔵の人脈って底が知れないんだなぁ。」
「???」
「そか? じゃありませんて。」
めるふぉvv 


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